片付け

部屋を片付ける頻度が減った。棚の物は殆ど動かない、床のものが床から床へ動いてるだけ。おやおや、耳を欹て何を聞いていらっしゃるのですか?はいmetoba trafficというずんぐりした音楽家の音楽です。音楽家は毎日毎日、人気のない室内や、ブラウン管や、パソコンや、太鼓や、プレイステーションや、トモダチや恋人に魔法の管を打ち込み音を吸い出しています。沢山お酒を飲むと赤い顔になり、Hになります、いつもは凄く真面目なのに。ときどき川沿いで会います、その時音楽家は右手を二回上げます、一回目は小さく上に向けて、二回目は少し強く斜めに。ほの暗いステージ、つまみの沢山ついた色とりどりの機械を机に並べ、木の椅子に腰掛け、背中を丸めたづんぐりした音楽家が、秋色のカントリーシャツを着た音楽家が、にやにやと機械を弄ぶ様子を思い描いてください。そこここで耳にする現実音たちが、音楽家の指先によって再構築されていきます。私達の日常では決して出会うことの無かった音達はが、時に恥ずかしそうに、時に友好的に、折り合い悪そうにそっぽを向いて、音楽家の望む時間軸にしたがって絡まっていきます。音楽家も万能ではありません、少し眠いのか脈が乱れ視界が淀み音が渋滞しています、私達は彼から目を離すと危険です、彼の指がほんの数ミリ動いただけで(本当は一日2万歩あるいているので大変です)、私達は右へ左へ4回、8回あるいは16回はたまた2回ゆれてしまいます。背中をまるめたままのっそりと立ち上がり、彼が長いアンテナに魔法の薬をひょいひょいと振り掛けますと、ヒューンヒューンプイーンプイーンとまぬけな動物が鳴きます、私達は口を開けて笑い、また彼がのっしと椅子に腰をおろし、四角い何かのボタンを突くと、誰かがコインを集めるイメージが中空に現れ、リズムはボイドに着地します。私達は少しほっとし、彼の指先を見つめます。今日はこれでおしまい。はにかみながら謝辞を述べ、色とりどりの機械とアンテナを大きなジュラルミンカバンに丁寧に詰め、その後に豆で出来たビール一口、とても大事そうに飲みました。音楽家はmetoba riverを今日も歩いています、急に訪れた冬枯れの川沿いを歩いていて彼の音楽を思い出しました。