落語

談志の『芝浜』の面白さは妻にある。人情話である芝浜の妻は良妻で表されることが多いのだが、談志のそれは無鉄砲で行き当たりばったりの妻が登場する。これは談志自身が語っていたことで、別に僕が発見したわけではないのだけれど、三代目志ん朝、4代目円楽、助六昭和元禄落語心中)などと聴き比べるとよく分かる。噺の終わりに、3年お酒を止めていた夫に妻が酒を勧めるシーンがある。先の3人の噺家は「お酒飲む?」と夫に酒を勧めるが、談志の妻は「のも、お酒のも、私も飲みたい」と誘うのである。このあたりが、うーん、なんというか人間味があるというと陳腐なのだが、感動のシーンも剽軽でおかしシーンに変わってしまうのだ。談志の落語は、落語をよく知らないと難しい。たくさんの噺と名人の型がわからないと、パロディーや崩しがわからない。談志の『やかん』はぜんぜんわからなかった。