訪問

父の父、いわゆる祖父は第二次大戦の前、松本で暮らしていた。暮らすといっても10代の頃、丁稚奉公をしていた。なので祖父は僕が松本に住むことを一番喜んでいた。大学に進学してほどなく、祖父は亡くなってしまい、松本の昔の話をもっと聞いておけばよかっと後悔した。祖父は戦争のことと、リアカーに沢山荷物をのせて高島屋に納品していたとを何回も話してくれたが、松本の事を聞いた記憶がない。その祖父がお勤めをしていたヤマロク陶器が、遠い親戚にあたるのか(あたらないのか)、縁があって僕は何度か家に遊びにかせてもらっている。随分ご無沙汰をしてしまって、おそらく5年ぶりくらいの訪問だっただろうか。1年前に1度お電話を頂いたのだが、大きな地震に見舞われて機会を逃してしまっていた。今日は天気がよかったので島内のお宅まで自転車に乗っていった。おばさんもおじさんもお変わりなく、歓迎していただいて嬉しかった。「国会中継みる?」といわれて、全然なんのことだかわからなくて、国会中継の鑑賞を勧められたことがなかったのでそれもそのはず、でも歳をとると面白いらしい。いいともよりは落ち着いてみられる、人間ドラマかも知れない。お茶、お惣菜、梅、おむすびと散々接待していただいた挙句に、お茶碗とミートザラ(ナルミのボーンチャイナ)まで頂いた。おばさんの話が面白くて、旦那より先に免許を取ったら、旦那のプライドを傷つけてしまって、以降運転させてもらえなったこと。嫁に行った時に、5日間かけて姑からコメの炊き方を教わったこと。孫が風来坊で心配していること。とにかく話題が尽きない、歳には勝てないといわはるが、忙しそうにしていてそれだけ健康でいらっしゃるようで元気を頂いた。本家のある大和(奈良県吉野郡)のことも久々に話題になって、今年一回行けたらいいなとおもった。こうやって、松本で心配してくださる人がいるのも、祖父のお陰なんだと思うとしみじみ感じた。祖父も松本の春を喜んだのだろうか。あの頃はもっと寒かっただろうから至極の春だったに違いない。お酒がすきだったから、花見で酒をやっていただろう、松本城なんかに訪れていたのだろうか。そういえば、祖父と父と僕で松本に来たことがあった、2001年の3月の終わり頃だったろうか。松本ぐらしをアパートを探しにきた時だ。あれからもう10年がすぎたのか。